国全体での医師不足は社会問題にも

現在、国全体で医療現場での医師不足が深刻な社会問題となっています。相次ぐ診療科の閉鎖の中で特に多いのが産科と小児科です。また救急診療科の閉鎖は1990年から約20年間の間に27%減少する事態となっています。社会の高齢化に伴う社会保障費の拡大は医療費の抑制を余儀なくしています。診療報酬は低下し、24時間対応という過酷な労働環境は健全で安全な医療提供を脅かし、医師の士気低下や病院経営の悪化の一途を辿ることになります。そして、「医師が疲れ切って病院を去る」という事態は、国全体の医療崩壊というシナリオが現実味を帯びていることだと言えます。
しかし厚生労働省は、医療現場の医師不足というマンパワーの不足の問題よりは、非効率的な病床機能の改善や地域医療の提供体制の整備を喫緊の課題としています。厚労省は、「全体としての医師数は足りている。都市部に偏在していることが問題であり、医療の高度化をさらに推進して安全性を高めて医療機関のシステム化・集約化がコストの軽減や医師労働の軽減に必要だ」といいます。
ところが集約化には盲点があります。三重県の御浜町と尾鷲市では、産科の「集約化」が実施されました。しかしその集約化により御浜町では産科医が3人体制となりましたが、尾鷲市は産科が無くなってしまいました。この事態を重くみた市民からの強い要望で市は独自に産科医を確保しています。効率化・システム化のための「集約化」という施策は新たな医師確保による市財政の圧迫というトリレンマをはらんでいます。
また地域医療は各種診療科の閉鎖に伴い、二次救急の受け皿となる病院が減っていて地域救急医療の崩壊が起きています。救急搬送先が見つからず、患者の容態が重症化したり、最悪亡くなってしまうケースが後を絶ちません。
医療現場の医師不足は医療崩壊の示唆であり、医師と患者との信頼関係に疑念を投じさせ、患者とのトラブルを引き起こす大きな要因の一つになっているということです。ほとんどの患者やその家族には「医療現場で何が起こっているか」、ではなく「目の前の医者や医療機関」しか見えません。急変に対応ができないのは病院に落ち度があるからだと考える人も少なくはないでしょう。
医療崩壊の解決は国全体の問題であるが、その解決できていないツケを医療現場の医師たちが払わされているリスクはあるといえるでしょう。